株式会社の設立に際し、作成した定款を公証役場にて認証してもらう定款認証という行程があります。

定款とはその会社のルールを定めた規程集のようなものです。
これはただ作成しただけでは効力を持たず、公証役場での認証を受ける事によりはじめて力を発揮できるようになります(合同会社などは除きます)。

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114 of 366 / Phil Gradwell

公証役場で定款の認証を受けるには手数料として、大体52000円ほど公証人へ支払わなければなりません。

本来この手数料とは別に4万円分の収入印紙を貼らなければならないのですが、電子認証をする事により印紙を貼る必要がなくなりますので、そちらの費用を回避する事は可能です。

しかし、紙ベースで定款を作成しようが電子データで作成しようが、前述した約52000円の手数料は同じだけ必要です。
気軽に何回でもしようかという金額ではありません。

その為可能な限り、認証手続きを行う前に間違いのないように確認を行い、認証後に訂正や変更がないように準備をしっかりしておきます。

以下は、定款を認証してから法務局での登記申請をするまでの間に内容を修正・変更しなければならなくなった場合の話です。
会社の設立後に定款を変更する場合は通常通り株主総会を開いて定款変更の手続きを行えばよく、訂正・修正や再度認証をする必要はありません。

定款認証後に記載された内容を修正・変更しなければならなくなった時

気をつけていても、定款認証後に定款内容の修正や訂正をしなければならない事態が発生する事があります。

一つは単純に何か書き間違いなどがあった場合。
もう一つは定款認証から登記申請までの間に定款記載事項について変更があった場合。

前者は注意していれば防げますが(それでも100%という訳にはいかないでしょう)、後者に関してはどうしようもありません。行政書士や司法書士が携わる場合には前者より後者の方が多くなると思います。

基本的には、一度認証した定款は登記申請が終了するまで内容は変える事ができないと考えていた方がいいです。

しかし前述したように、それでも内容を修正しなければならない事は発生します。その場合に取るべき方法は以下の2つです。

  • もう一度認証し直してもらう

  • 誤記証明書を発行してもらう

※)以下説明。特に注意書きのない限り電子定款認証に関するものです。

もう一回認証をやり直す

一旦電子認証した定款を回収し、もう一度認証をやり直す方法です。

定款の電子データだけでなく、それを印刷した定款謄本(同一情報)も回収しなければなりません。また定款認証時に発行した公証役場の領収書(計算書兼領収書)も必要になります。

逆に言いますと、これらが揃わなければ定款の再認証はできません。
つまりもうすでに登記申請をしてしまっていて、定款謄本を法務局へ提出した場合などは原則として戻ってきませんのでこの方法は使えないという事になります。

その場合は後述する「誤記証明書」を使用する方法を選びます。

注意点は認証の日付が変わってしまう事

定款の認証をやり直すので、定款認証の日付が変わります。新しく認証をした日が定款認証日になるわけです。

この認証日の変更があるので領収書の回収も必要になるというわけです(領収書の日付も変わる)。

そして認証日の変更により影響を受けるのが資本金の払い込みです。

資本金の払い込み日が定款認証日の前でも別に構わない地域であれば、そんなに問題ありません。

しかし大阪のように法務局が定款認証日の後の資本金振込にこだわる地域であれば、日程によっては再度資本金を引き出してもう一度振り込む作業が必要になります。

定款の再認証にお金はかからない事がほとんど

本来なら、定款の認証手続きをもう一度するなら再度定款認証手数料を支払わなければなりません。一昔前は、公証役場で実際にそのように言われた事もあります。

しかし最近では、この定款の再認証をする場合に、もう一度認証手数料約52000円を請求される事はほとんどないと言っていいです。少なくとも自分は体験した事がありません。

ただし、それはあくまで公証人の判断によるものとなります。公証役場で「ダメ」と言われてしまえば再認証の手続きはできませんorもう一度手数料を払わなければなりませんので、その時はあきらめて従いましょう。

同じ行政書士でなければダメ

なお、認証をもう一度するので電子申請も新たにやり直す事になります。
この場合、必ず最初に電子申請をした行政書士と同じ行政書士でなければ再度の電子申請を行う事ができません。

なんらかの事情により別の行政書士に頼まなければならない事態に陥った場合は、もう一度手数料を支払って、改めて定款認証を最初からやりなおすか、後述する誤記証明書を発行してもらうしかないという事になります。

※追記

再認証により修正する場合、最初の認証からあまりにも時間が経つと受け付けてもらえないことがあります。(実際に体験したので追記)

最初に定款認証をした時から年をまたいで半年以上経過した(設立の登記申請はまだしていない)定款の修正をお願いした時は、かなり軽微な変更であったものの公証役場で受け付けてもらえず、結局0から定款認証のやり直しとなりました。

やり直しといいますか、この場合は全く新しい法人の定款認証をすることと同じになりますので、公証役場での手数料などの費用が再度必要となります。
このあたり、修正の可否は公証人の判断次第となりますので注意。

誤記証明書を発行してもらう

次は法務局に登記申請の添付書類として定款謄本(同一情報)を提出してしまって戻ってこない場合。

この場合には回収して再認証をする事ができません。そんな時は、認証をしてもらった公証人に誤記証明書を発行してもらう方法をとる事になります。

誤記証明書とはこんなやつです。↓

誤記証明書

状況に応じて体裁や内容は変わります。
ちなみにコレはコピーなので白黒ですが、本物はもうちょっと色がついてカラフル。

なお、この誤記証明書の発行に手数料はかかりません。

誤記証明書を追加の書類として法務局へ提出する事により、認証後であったとしても定款の内容についての修正や変更が可能になります。

こちらは認証の日付が変わらない

こちらの方法の場合、再認証するわけではありませんので定款認証日に変更はありません。従って資本金の払い込み日に気を遣う必要もなく、そのまま登記申請手続きを続ける事ができます。

ただ再認証と違い、すでに受け取っている定款の電子データや法務局に提出していない定款謄本の内容は物理的に修正前のままなので、そちらについては何かの機会に(設立後に別件で定款変更する場合などに)正しいものに修正しておくほうが望ましいでしょう。

誤記証明書を法務局に提出する際にその事を注意(案内?)されたりもしますので、これはちゃんとしておきましょう。

別の行政書士でもOK

定款を再認証する場合は、最初に電子申請をした行政書士でなければできません。

しかし誤記証明書の発行自体は特に何かの申請手続きが必要という訳ではありませんので(だいたい公証役場への電話1本でOK)最初に手続きをした行政書士に拘らなくてもいいです。

とは言ってもたいていの場合、事情がわかっていたり公証役場とのやりとりがスムーズに行くという事もあってそのまま同じ行政書士がする事になるとは思いますが。

あくまで元々の定款の修正の修正・変更に限る

定款の再認証にしろ、誤記証明書の発行にしろ、あくまでそもそも最初に認証した定款の変更に限られます。

たとえば、商号を変え発起人も入れ替わり本店所在地も事業目的も役員の人員も変更するような場合には、それは全くの別法人の認証になってしまう為、修正や変更とは呼べません。

そんな時には、新たに最初から定款の認証をやり直さなければならなくなります。当然認証手数料ももう一度支払う必要あり。

定款の再認証や誤記証明書の発行は、あくまで元々の定款の軽微な変更や修正に限られるのです。

では一体どこまでの変更が軽微であって、どこからが大きな変更になるのかという話ですが、これは担当する公証人の判断によります。

とある公証人に聞いたところでは、「商号や発起人が変更になれば、それはもう別法人という判断になる」と説明された事があります。

しかしそことは違う公証役場で、「定款認証から登記申請までの間に設立する法人の商号が変更になってしまったので修正」という案件があったのですが、これは特に何を言われるという事もなく誤記証明書を発行してもらえました。

ただ厳密に考えると、あくまで誤記というのは「間違えた」場合に使用するべきものであり、「間違いではなく、内容を変更する」といったケースにはそぐわないものと言えます。

その為、単に状況が変わったので内容を変更したいというような場合には、誤記証明書の発行や再認証が断られるケースも考えられます。

このように、公証役場単位もしくは公証人単位で「一体どの場合なら修正・変更できるのか」という判断は変わります。上記にも少し書きましたが、担当の公証人に無理と言われてしまえばどうしようもありませんので、その時はおとなしく諦めましょう。