最近は、士業がAIにとって代わられるといった説をよく目にするようになり、それを証明するかのごとく、これまで士業が独占していた業務に新たな企業・サービスが参入するようになってきました。
今回、株式会社の役員変更手続きをする必要があり(業務としてではありません)、前から興味のあった商業・会社変更登記申請オンラインサービスのAI-CON登記を利用してみました。
→商業・会社変更登記申請オンライン支援サービス|AI-CON登記
こんな感じのWEBサービスで行政書士業務向けのものがあれば、業務として積極的に利用していきたいのですが、なかなかありません(法務局への登記申請代理は司法書士業務)。
今のところどうしても司法書士業務や弁護士業務に関連したものしかなく、行政書士業務として利用することが難しいので、こういった業務とは関係のないところで、利用出来る機会があれば、積極的に体験して学んでいきたいと思っています。
似たようなサービスとして、以前から「会社設立ひとりでできるもん」というものがありました。
しかし今回AI-CON登記を選んだのは、AI-CON登記の運営会社のGVA TECH株式会社が、他にAIを利用したAI-CONという契約書レビューサービスを運営していたからです。
AIと士業とは、これから先避けては通れない関係になると思いますので、どんなものなのか触りだけでも体験できればと思った次第。
今回行った作業は株式会社の役員変更登記の書類作成。
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役員は取締役のみ
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全員重任
という最も基本的なものです。
目次
仮登録
AI-CON登記を利用するにあたってまず必要なのが、アカウントの作成。。
なお利用する際の推奨ブラウザはChrome、Firefox、Safariとなります。
トップページからメールアドレスと任意のパスワードを入力してアカウントを作成
仮登録完了のメールアドレスが届きます。
届いたメールに記載されたURLよりアカウント情報の入力を開始していきます。
アカウント情報を入力して本登録
メール記載のURLをクリックすると、先ほど作成したメールアドレスとパスワードの入力画面が開きます。入力して「入力完了」をクリック。
会員本登録に必要な情報を入力していきます。申請者の氏名・住所、手続きをする会社名など。
続いてその下にある「使用したい機能」にチェックします。今回は役員変更で取締役・代表取締役全員同じ人が続けるので、「役員変更(重任・退任)」にチェック。
会社関係の手続きにおいて、まず聞かれるのが、「こういった事があったけど、何をの手続きをしなければいけないのか?」と言う質問。
会社というものは運営を続けていくに従い、途中で様々な手続きが必要になります。法務局での登記事項に変更があれば、実体に伴う変更登記をしなければなりませんし、登記事項でないものに関しては登記をする必要がありません。
でも登記が不要であったとしても、定款変更の場合など、株主総会を開いて議事録を作成し、保存をしておかなければいけないものもあります。
そのあたりに関しての説明は特になし。
つまりこのサービスは、何が起きた場合に何の手続きが必要なのか、ちゃんと把握していることが前提のものとなります。
登記に関しても、商号変更と事業目的の追加のように、まとめて一度に手続きをすれば登録免許税が3万円で済むものの、別々で手続きをすればそれぞれ3万円の合計6万円必要となってしまう、といったように登記のやり方次第で必要な費用が大きく変わるものもあります。
登記ってものすごくお金がかかるようなイメージがあるかもしれませんが、個人的な印象からすると、司法書士の先生に支払う報酬はわずかなもので、役所へ支払う登録免許税(印紙代)でもって大きくお金が必要になるというイメージです。
そのあたりを自分で調べられる人でないと、こういったサービスをうまく利用するのは難しいですね。
続きです。
「使用したい機能」にチェックを入れた後は、「利用規約に同意する」にチェックを入れて(利用規約にはきちんと目を通しておきましょう)「入力完了」をクリック。
その手前でマネーフォワードクラウドと連携したいのであれば、チェックを入れる項目がありますが、今回は連携する必要がなかったのでチェックを入れていません。
登記手続きの選択
上記「入力完了」をクリックすると、今から何の登記手続きをするのか選択画面に移ります。さっき選択してチェックをいれたような気もしますが。
なおこの画面のリンクから、「書類作成から提出までの手順」を見ることが出来ます。
「重任・退任;役員変更」を選択
「取締役・代表取締役のみ対応」となっているので、監査役が存在する株式会社に関しては手続き出来ません。古い会社ですと名残で監査役がいるところ結構あるんですよね。
また↑詳細説明にもある通り、任期満了に伴う重任・退任のみ対応で、辞任を原因とする退任の手続きについては非対応です。
ここから書類作成手続きに進んでいきますが、その前に同じ「登記手続きの選択」画面で役員の任期管理についての登録項目がありましたので、先にそちらの手続きをやってみたいと思います。
役員の任期管理
上記と同じ画面の一番下、「その他の機能」から役員の任期管理を行うことが出来ます。
株式会社の役員(取締役・代表取締役・監査役等)には任期があり、その任期が満了した際には、同じ人が役員を続ける場合でも法務局で変更登記を行わなければなりません。
例えば取締役の場合。
取締役の任期はほとんどのケースで、定款に記載されています。
株式会社の設立の際にネット上などによくある株式会社の定款の雛形をそのまま使っていると、取締役の任期が2年になっていることがよくあります。
この場合は、2年毎に役員の変更登記を必ず行わなければなりません。
せずに放置していた場合は、選任懈怠・登記懈怠どちらにしても過料の制裁を受けることになります。選任懈怠では、任期が途切れているとされる事もありますので、登記うんぬんより許認可に影響があったりするので殊更注意が必要。
株式会社設立時に、自分だけで設立するではなく、司法書士・税理士・行政書士等に相談をしていた場合は、この役員の任期についても検討するかと思います。
一般的に最も多い「非公開会社(株式の譲渡制限を定めている会社)」では、この取締役の任期は最長10年まで伸ばすことが出来ます。
役員の任期に関してはメリットデメリットがありますので、必ずしも長ければいいというものではありませんが、10年にしておけば、同じ人がずっと役員を続ける場合、10年に一度法務局への手続きを行うだけで済みます。
逆に言えば、少なくても10年に一度は法務局に対する手続きを行う必要があるということです。
ちなみに現在では、最後の登記から12年間何の登記も行っていない株式会社に関しては「休眠会社に関する公告が行われた旨」の通知が郵送されるようになっています。
一般社団法人や一般財団法人の場合は最後の登記から5年。
この通知を無視して、法務局へ対し何の手続きも行わなかった場合、登記官の職権によって「解散の登記」をされることになります。いつの間にか会社が解散されているという事態に。
いずれにしても、役員の任期を無視して(うっかり忘れ)いると面倒な事にしかなりません。
その為に役員の任期の管理は非常に重要。
司法書士の先生などに任せていた場合は、この期日管理は士業側でやってもらえるので、手続きが必要な時期にちゃんと連絡が来ると思います。
正直任せきっているほうが精神的に楽でいいとは思うのですが、会社内部で全てやりたいのであればこのAI-CON登記の任期管理システムを使うのも一つの方法かと思います。
利用したいのあれば、「役員任期情報を登録する方がこちら」をクリック
任期情報の登録画面が開きますので、「新規登録」をクリック。
任期情報の登録画面が開きます。
「選任年月日」「任期」「事業年度」をそれぞれ入力。
最後に「入力内容の確認」をクリックすると確認画面が開きます。
ちなみに今回のケースでは、
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事業年度は8/1~7/31
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役員は取締役のみ
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任期は10年
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最終の事業年度に係わる株主総会は8/19開催
でしたので、次は10年後、2030年の7月決算に関する最終の株主総会の終了後2週間以内に役員変更の登記を行うということになります。
なおこの場合、「任期お知らせメール」は2030年の7月末日に送信されてくるとのこと。メールの宛て先は、アカウントを取得した際に登録したメールアドレスです。
もちろん、10年後このサービスが存続していること、また登録したメールアドレスを10年後も使用していることが条件です。
最後に「保存」をクリックで「任期お知らせメール」の登録完了。
この後、登記手続きの選択画面に戻って手続きを進めていきます。
会社基本情報の入力
先ほどの続き。
「重任・退任;役員変更」の「選択」をクリック。
ここから完了までの流れがステップで表示されます。
上記に沿って進めていきます。
まずは「会社基本情報の入力」。「STEP01の入力」をクリック。
ここで入力される基本情報はアカウントに紐付けて保存されるそうです。その為、同じ会社で次に別の手続きをする場合も使い回しが可能。
ただし、その間に会社の情報が変わっている場合は内容を更新しなければなりません。
では、会社基本情報の入力画面より、まずは「登記情報」の入力
登記情報に関しては、手元に登記簿謄本や登記データがあれば手入力も可能ですが、AI-CON登記では登記情報の無料取得サービスを行っているとのこと。
せっかくなので利用してみることにしました。
手打ちの場合は、どれほど気をつけていても誤入力の確率が0にはなりませんので、どんな場面であっても自動入力とコピペ推奨です。
登記情報の取得は現時点では無料サービスとなっていました。
ただし平日の10:00~18:00の間でしか使えません。
夜や土日祝日に操作を行いたい場合は、自分で手入力することになるか、あらかじめ平日日中に登記情報だけ取得しておくことになるかと思います。
とりあえず↑上記の「取得申込み」をクリック。
「送信」をクリック。
1時間以内に担当者より連絡がくるそうです。
なおこの時は、送信した4分後には登録したメルアド宛てに登記情報取得のメールが届いていました。
届いたメールに登記情報のPDFファイルが添付されています。
この登記情報のPFファイル、士業であれば馴染みがあると思いますが、登記情報提供サービスで取得できる登記簿謄本データですね。
ですので、登記情報提供サービスを利用して自分で取得し、使用することも可能ですが、その場合は登記情報提供サービスでのアカウントの作成と取得費用がかかります。
数百円の話ですけれども。
ただこのAI-CON登記サービスを利用して取得すると無料(なお1回の登記手続きにつき1回だけ無料で取得できるそうです)。
さて、登記情報も取得出来たので会社基本情報入力の続きを行います。
先ほどの登記情報取得申込み画面の下にあるアップロード画面より、今メールにて届いた登記情報のアップロードを行います。
登記情報のセットが出来たら、一番下の「次のステップ」をクリック。
登記情報の入力画面が開きます。
会社名等の基本情報が自動で入力された状態になります。
全部入力されているので、確かにこれは楽。
もし違っている情報があれば横にある「変更」ボタンより修正します。
住所・連絡先情報や役員情報なども確認し、間違っていなければ「完了」をクリック。
登記情報の保存完了画面が表示されます。
株主情報の入力
続いて株主情報の入力を行っていきます。これな株主リスト作成のため必要。
平成28年より、登記すべき事項につき株主総会の決議が必要な場合・株主全員の同意が必要な場合には、株主リストが登記の添付書面となりました。
今回も任期満了に伴い役員の重任ということで、株主総会決議が必要となりますので、株主リストも作成しなければなりません。
このあたりは、その意味合いがわかっていなくても、手順の上で自動的に株主リストが作成されるようになっていますので、深く考えなくても書類は完成します。
ということで株主名簿情報を入力。
終われば「完了」をクリック。
次のステップに進むとのこと。
ここまででSTEP01の入力は完了のようです。
役員重任・退任手続きの入力
続いて、取締役重任手続きの情報を入力していきます。「STEP02の入力」をクリック。
なお下記の情報を準備しておくとスムーズに手続きが進められるそうです。
表示された次の画面より必要な情報を入力していきます。
役員変更情報
まずは重任もしくは任期満了する役員の選択。
今回は取締役2人で全員重任なので、こんな感じ。
次に事業年度の入力。
そして効力発生日。今回のケースに関して言えば、株主総会の開催日が該当します。
会社実印の届出を行っている代表取締役にチェックを入れます。というか一人しかいないのでチェック入れるだけ。
最後に株主総会開催情報を入力。
入力が終われば「次へ」をクリック。
代表取締役選定方法
次のページで代表取締役の選定方法についてチェックを入れます。
この株式会社の場合、定款では取締役2名以上の場合は「、取締役の互選によって選定するものとする。」と定めてあるので「取締役の互選」にチェック。
最後に「次へ」。
手続き確認
これまで入力した情報を元に役員変更に伴う手続きのタイムスケジュールが表示されます。
もちろん頭の中ではこのスケジュール感について理解は出来ていますが、こんな形で一覧で見れると結構便利ですね。
返金・キャンセルに関するポリシーがページ下部に表示されているので念のため確認。
問題なければ「次へ」をクリック。
支払い手続きとオプション選択
購入書類の確認画面が表示されます。
今回の役員重任手続きで作成してくれる書類は下記の通りとのこと。利用手数料は1万円。
オプションプランも2つほど紹介されていました。
かんたん郵送パック
まず一つがかんたん郵送パック。登記申請は郵送でも可能です。コロナ禍の現状、書類が完璧に出来上がっているのであれば、人の多い法務局へわざわざ出向いて行くよりは郵送申請のほうがお勧めかもしれません。
ちなみにこの「かんたん郵送パック」では、管轄法務局の宛て名入りレターパックと登記申請に必要な書類がセットで届き、押印すればそのまま発送して申請できる仕様のようです。
どの印鑑でどこに押印するかも、わかりやすく付箋付きで親切。
現在、割引中で通常5000円のところ、3000円でこのオプションをつけることが出来ます。ただし書類が手元に届くまで、購入から2~3日が必要。
登記簿謄本郵送オプション
もう一つのオプションが「登記簿謄本郵送オプション」。
法務局登記申請が受理されると、一定期間の補正期間があり、問題無ければ登記申請完了となります。
ただ登記が完了しても特に連絡などはありません。
変更内容が登記簿に無事反映されているかは、登記簿謄本を取得して確認しなければわかりません。
このオプションは、登記完了後に登記簿謄本2通を取得し、指定の住所に送付してくれるというもの。
+5000円追加で選択できます。
支払い手続きに進む
郵送パックには惹かれるものがあったものの、2~3日待つよりはさっさと印刷して申請しておきたいということもあったので、今回はオプションの購入は無し。
基本料金の支払いだけで進めることになりました。
「支払い情報の確認」をクリック。
クレジットカード情報を入力して「ダウンロード購入」をクリック。
決済完了。
必要書類のダウンロードが可能になります。
必要書類を見てみると、定時株主総会開催決定の取締役決定通知書から始まり、定時株主総会の招集通知などまで含まれています。
登記申請時にどれが必要でどうやって製本すればいいのかなどは、同梱のマニュアルに記載されているので、それを見ながらやれば問題ないでしょう。
書類一式はzipファイルでダウンロードできますが、解凍するとファイル名が全部文字化けしているのはいただけませんね。
拡張子がおかしくなってPDFファイルじゃなくなっているものもありますし。
もしかして環境問題(上記はWin10 64bit環境で行ったものです)?
ただ印刷して書類の中身を見れば何の書類かわかるので、実際に手続きにおいてはそこまで支障はなし。PDFがおかしくなっていたのは拡張子を手打ちして(.pdf)修正しました。
商業登記申請書作成サービスは司法書士法違反にならないのか
サービスの使い勝手に関してはこれまで述べてきた通りで、非常に素晴らしいものだと思います。
ここでひとつ疑問点。
これって司法書士法違反にならないの?
運営会社は司法書士法人ではない
最初に述べた通り、このAI-CON登記を運営しているのはGVA TECH株式会社。
代表者は山本俊氏。GVA法律事務所の代表弁護士でもあります。
GVA TECH株式会社は他にAIによる契約書チェックサービスで有名な「AI-CON(アイコン)」や契約書ひな形ダウンロードサービスの「AI-CONドラフト」なども運営している会社です。
AI-CON登記は、司法書士が監修となっているものの、運営会社であるGVA TECH株式会社は司法書士事務所ではありません。
ここで少し司法書士法を見てみましょう。
司法書士の独占業務は司法書士法第3条に限定列挙されています。
今回問題となるのは、司法書士法第3条2項
3条
二 法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第四号において同じ。)を作成すること。ただし、同号に掲げる事務を除く。
法務局へ提出する書類を代理で作成できるのは司法書士のみ、代理で申請まで行うのも、もちろん司法書士でなければ出来ません。
なんで、ここにこだわるかと言えば司法書士法違反で逮捕される行政書士がちょこちょこ存在し、そのほとんどが登記申請代理を業として行っていたからです。
行政書士としても業際問題は気になるところ。
法務省への照会と回答
これにあたり判断材料にすべき一つの事例があります。
平成30年に法務省に対して行われた、「グレーゾーン解消制度」に絡んだとある照会とそれに対する回答です。
その前にグレーゾーン解消制度とは?
→グレーゾーン解消制度 | 消費者庁
「グレーゾーン解消制度」とは、産業競争力強化法に基づき、事業者が、現行の規制の適用範囲が不明確な場合においても、安心して新事業活動を行い得るよう、具体的な事業計画に即して、あらかじめ規制の適用の有無を確認できる制度です。
ものすごく簡単に説明すると、「今度こんな事業を始めたいけど、法的に何か問題ある?」とあらかじめ国に対して質問できる制度です。産業競争力強化法に基づくものなので窓口は消費者庁、上級官庁は経済産業省です。
今回参照したい照会内容と回答は下記の文書の通り。
~利用者が本店移転登記手続に必要な書類を生成できるWEBサイトを通じたサービス等の提供について~
→181107_press.pdf(PDFファイルが開きます)
経済産業省への照会ですが、管轄の兼ね合いで回答しているのは法務省です。
もう少し詳しい文書はこちらから
・照会内容
産業競争力強化法第7条第3項の確認の求めについて
→001273217.pdf(PDFファイルが開きます)
・回答内容
確認の求めに対する回答の内容
→001273218.pdf(PDFファイルが開きます)
細かく説明していくとキリがありませんので、ものすごく簡略化すると下記のようなやりとりです。
質問:
「質問に答えていくだけで、本店移転登記手続きに必要な書類が自動で作成され、印刷して法務局へ登記申請書類として提出できるサービスを開始したいけれど、司法書士または司法書士法人でなくても事業として行うことは可能?」
回答:
「利用者に対し個別具体的なアドバイスをするものではないかぎり、今回照会のあった業務内容(本店移転登記の書類作成)においては、司法書士または司法書士法人でなくても事業として実施可能」
念のため。この平成30年の照会と回答に関しては、あくまで「本店移転登記の必要書類」に限定した回答となっています。
なお照会したのは、AI-CON登記のGVA TECH株式会社ではなく、株式会社グラファー。
→株式会社グラファー
行政・法務手続きの電子化を推し進めている企業です。Graffer法人証明書請求などで、提供サービスを利用した士業の先生方もいるのではないでしょうか。
司法書士法違反ではないという判断
この株式会社グラファーによる照会と回答が行われたのは、2018年8月。
AI-CON登記のサービスが開始されたのが2019年1月。
上記照会と回答を踏まえてなのかはわかりませんが、提供する事業内容が司法書士法に違反していないという判断のもとに開始されたサービスだと考えられます。
サイト公開当初、AI-CON登記で提供されていたサービスは
・登記情報の取得
・本店移転
・募集株式の発行(増資)
以上の3点のみ。
その後、次々と対応手続きが追加されて現在に至っています。
最新の対応済み手続きについてはこちらをどうぞ
→対応登記・料金 | AI-CON登記
なお、現在のAI-CON登記のサイト上からは探すことが出来ませんでしたが、サービス開始当初のプレスリリースでは、提携先として司法書士法人ライズアクロスの名称が記載されていました。
またその時点では、司法書士による無料相談も提供されていたようです。
現在この無料相談サービスが提供されているのかは不明。サイトからは見つけきれませんでした。
司法書士会連合会の主張
余談ですが、2019年上旬に当時現職であったの山下法務大臣に対し、公明党の衆議院議員高木美智代氏より、司法書士連合会の主張として、この照会事案に対する質問がされています。
→民間事業者による登記に必要な書類を生成できる事業、外国人人材の活用、成年後見制度などについて | 公明党 高木美智代|マイナンバー、子ども・子育て支援、障がい者支援|衆議院議員
法務省としては変わらず、「司法書士法には違反しない」と回答されています。
行政書士が業務として利用する場合
このサービスが司法書士法違反ではない、として話を進める際に、では行政書士が申請者より依頼を受けてAI-CON登記を使用して登記申請書等を業として作成した場合どうなるのでしょうか。
これは明確に業法違反ですね。
申請者から依頼を受けて、業として法務局へ提出する書類を作成するのであれば、紙に手書きで作ろうがWordで作成しようが、オンラインサービスを利用しようが、そこに違いはありません。
自分が運営している株式会社であったりすればもちろん別ですけれども。
電子化が進むと士業の仕事は奪われるのか?
一通りAI-CON登記を利用してみての感想は、とにかく楽!です。
確かにこれは簡単。
記事にすると結構長くなっていますが、正直、株式会社の仕組みや必要書類の意味が分かっていれば、操作時間10分~15分くらいで登記必要書類一式が作成出来てしまいます。
もちろん重任登記のみで、特に複雑な申請が必要なかったということもありますけれど。
ただAI要素がどこにあったのかは謎。名称だけなのかも。もしかして登記情報の読み取り部分?
こういったサービスが登場した際によく言われるのが、「手続きの電子化やAIの登場で士業の仕事がなくなる」というもの。
もはや言われ過ぎていて耳にタコですね。
登記業務に関しては司法書士独占業務であり、門外漢(こちらは行政書士)なので、分析や推察は出来ますが、あまりどうこう言えません(個人的には司法書士の先生に頼む人は頼むので、どんなに便利なサービスが登場しようとも仕事がなくなっていくとは思えないです)。
行政書士業務に当てはめて考えてみたいと思います。
コロナ禍において、役所の窓口へ直接申請に出向くことを可能な限り避ける流れが加速し、郵送申請・電子申請がどんどん推奨されるようになってきました。
というより、元々電子化は推し進められてきていたはずなのですが、実際のところは諸問題により遅々として進まず、しかしコロナに追い立てられるようにしてようやくスピードアップしてきたというのが現状でしょうか。
印鑑文化もようやく衰退していきそうな雰囲気(これは雰囲気だけで終わらないで欲しい)を醸し出してきました。
平成22年を目処に建設業許可も電子申請可能になる予定です。
→建設業許可・経審 22年度に電子申請化
建設業許可といえば行政書士業務の王道中の王道でもあります。
そのせいでしょうか、これを受けて早速みんな自分たちで申請をするようになるから行政書士の仕事はなくなる、といったような意見も見られるようになりました。
でもそれはさすがに極論。
現在、行政書士に外注している申請者
→電子化されてもそのまま外注
現在、申請業務を内製で行っている申請者
→電子化されてもそのまま内製
となるだけです。
スマホに向けて「株式会社○○ 建設業許可」と話しかければ、自動で必要書類が全
て作成され申請まで行ってくれるのなら、さすがに皆自分たちでするでしょうけれど、電子化されるといってもそこまでのレベルに達することは考えにくいです。
それに許認可って「作成」に加えて「集める」という作業もかなり膨大な量になりますので。
簡単になれば、皆自分で申請するはずというのもこれまた幻想。
そもそも「簡単」の基準が士業と一般社会では違いすぎます。
コロナ施策として行われた特別定額給付金。
申請さえすれば10万円が皆もらえるというアレです。
市区町村によって多少書式に違いがあれど、ほとんどの場合、氏名・住所と通帳番号を記入するだけです。あとは身分証明書と通帳のコピーを添付。
誰だってすぐに出来そうに思いますが、それが出来ずに放置している人がたくさんいる事も以前に報道されていたのが現実。
持続化給付金もそうです。
士業から見ればものの10分ほどで申請できてしまう内容ですが、そもそもオンライン申請・電子申請と聞いただけで拒否反応を示してしまう事業者さんに、ここ数ヶ月で何十人も会いました。
家賃支援給付金も難しいようにも見えますが、数をこなして慣れてきた最近では、資料さえ揃っているのなら20分もあれば申請できてしまいます。
ただこれも自分たちでは出来ないのでお願いしたいという依頼が、今も治まる気配がありません。
電子化されれば便利になるというのは、それが出来る人の感覚なのです。
出来ない人からすれば、電子化したほうがより不便になってしまっているというのが現実でもあります。
電子化されてむしろ助かるのは、行政書士の方です。
なぜなら手続きのためにわざわざ予約して役所に出向く必要がなくなるから。
そしてノマドチックに、全国どこにいようが役所での申請手続きが出来るようになるのです。短縮できた時間を申請者対応にまわすことが出来れば、顧客満足度をより上げることも可能。
一昔前の旅館業許可の申請などは、段ボール一杯に近いくらいの書類を運び込んで申
請していたものです。
この頃、保健所の窓口で「電子申請が出来るようにならないですか?」と冗談交じりに何度か聞いた覚えがあります。
これらが全て電子データで完結できるようになるなんて夢のような話。
でもなかなかそんな時代はこないでしょう。
AIが浸透して単純作業を全て行ってくれるようになるなら大歓迎。AIを使う側、命令を出す側ににまわればいいだけです。そこで出来た余裕を集客に回せば、良い循環が生まれます。
ということで、行政書士業務分野へのAIの浸透を待ち望んでいます。