株式会社やNPO法人などが法人として事業を続けていく際に、必ずしなければならない定期的な手続きというものがいくつかあります。
その手続きのうちの一つが「役員変更登記」。

役員とは株式会社でいえば取締役・監査役、NPO法人や一般社団法人等でいうところの理事・監事などの役職者の事です。

Contracts
Contracts / NobMouse

役員の任期について

合同会社等の役員の任期を定めていない法人を除けば、ほとんどの法人の役員には任期があり、一定の期間が来れば退任しなければなりません。ただし同じ人が再び新しく役員になる事は構わないので、結局のところ同じ人物がずっと役員を続ける事は可能です。

ただし同じ人がそのまま役員を続ける場合であっても、一度退任をしてからまた就任するという手続きを行う必要があります。この退任と同時に再任される事を重任と呼びます。

役員の任期は元々の法律(会社法等)や定款によってその長さが定められており、株式会社などは特定の条件を満たせば最長10年まで伸長する事が可能となっています。

これに対し、NPO法人や一般社団法人等では最長でも理事は2年まで、監事は4年までしか任期をのばす事はできません。ただし選任後、任期中に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時社員総会の終結の時まで任期をのばせるという、おなじみの条文も存在しますのでそこまでの伸長は可能です。

まあざっくり2年と4年と理解しておけばいいと思います。

役員変更登記をしなかった場合の罰則

The punishment of Prometheus
The punishment of Prometheus / Jinx!

さて、この任期が過ぎてほんとは役員変更の手続きをしなければならないにも関わらず、それをしなかった場合どうなるのでしょうか?

この場合、株式会社などであれば過料を支払わなければなりません。ただしどういう訳か必ずしも請求されるということでもなく、変更登記を遅れて手続きしても過料については何も言われないという時もあります。

基準はよくわかりませんが、登記官か裁判所の判断によって変わるのでしょう。
(推測なので根拠はないです。)

ちなみにこの「役員変更手続きをしなければならないのにしていなかった」という状態には2種類あります。それは選任懈怠登記懈怠です。

選任懈怠

役員変更の為の決議(就任・退任・重任等)がされていない状態。
もしくはそもそも決議する為の総会等(株主総会・社員総会・理事会等)が開催されていなかった場合。当然ながら役員変更登記はできない。

登記懈怠

役員変更の為の決議はなされている、つまり役員と法人間の委任契約は完成している。しかしその後役員変更登記(法務局での手続だけ)をしていないという状態。

会社法では第976条において選任懈怠(976条1項22号)、登記懈怠(976条1項1号)共に怠った場合には過料を課すという条文が存在します。

しかしNPO法人に関して登記懈怠は特定非営利活動促進法の第80条で過料の規定があるものの、選任懈怠についてはこれに類した規定がありません

したがって、長期にわたって選任懈怠の状態であったにも関わらず過料は課されないという事態が発生したりします。
これについては実際の事例で後述します。

選任懈怠の状態にあるNPO法人がちゃんと役員変更をする為の議事録

January, 1979
January, 1979 / funnyface_6

ここまでが前振りでここからがやっと今回書きたかった本題。

実際の事例

以前にあった、とあるNPO法人に関する案件です。
実際の内容はもう少しややこしい事情が絡んでいたのですが、ここでは簡略化して書きます。

当初話があった時は、役員変更等の手続きをしばらく怠っていたのでどうにか本来あるべき状態に戻したいという事でした。

さっそくその法人の登記簿謄本を取得してみると、たしかに最後に役員変更登記をしてから5年間ほど放置されている状態です。ただ不思議な事に資産の総額の変更登記だけはされていました。

とはいっても登記の日付を見る限り数年分を同じ日に登記申請していたので、おそらく後からまとめて処理したのでしょう。
聞いてみると、資産の総額の登記についてはお願いしている税理士事務所経由で司法書士の先生にやってもらったとのこと。

謎なのは、最後に資産の総額の登記をした段階で、明らかに役員の任期が過ぎているにも関わらず、それを放置している事でした。税理士さんや司法書士さんはそれについて何も言わなかったのかこのNPO法人の方に聞いてみたのですが、あまり要領を得るような返事はなし。

なおNPO法人の場合には、この役員の変更登記以外にも毎年必ず所轄庁に対して事業報告書等を提出しなければなりません。それについても結構怠っていたらしく、裁判所より罰則(過料を支払えという内容)の通知が来て、過去に一度収めていました。それ以来、事業報告だけはきちっとやっていたそうです。

あらゆる手続きが結構ルーズなままという印象でした。
NPO法人はしっかり運営しているところももちろんありますが、このように色んな手続きを放置しているところも多々あったりします。

ちなみにあまりにもすべき手続きをしないNPO法人については、先日の法改正により職権で所轄庁が認証の取り消しを行えるようになりました。
気をつけましょう。

さて、事業報告はしていると聞いていたので、てっきり役員選任の決議自体はしているものだと思っていたのですが(事業報告書等の中に定時社員総会の議事録もありますので)、さかのぼって定時社員総会の議事録や過去の所轄庁に対する報告書を見てみると、明らかにしていなければならない時期に役員改選を行っていません。

ここでも不思議だったのが、改選していなければならない時期の定時社員総会で一切それに関する議題が上がっておらず、報告書を見れば役員選任を怠っているのが明かなのにも関わらず、所轄庁が何も言ってこなかったということ。

この案件に関して、所轄庁は大阪府ではなく権限移譲された某市役所でした。
実際のところ提出された報告書の中身についてあまり見られていないのでしょうか?それならば何の為に毎年報告書を上げさせているのか、若干謎が残ります。

それはさておき。
こういった事情によりこのケースは登記懈怠ではなく選任懈怠に該当します。上述したようにNPO法人は選任懈怠についての罰則というものが存在しません。

かつ、そもそも役員の改選自体をしていないわけですから、登記の事由というものが存在しません。

つまり登記懈怠には絶対にならないのです。
結果的に手続きを怠っていたにも関わらず、それについての罰則(過料)は発生しませんでした。

なおこのNPO法人は定款の中で

第14条の4

役員は辞任後においても、後任者が就任するまでは、その職務を行わなければならない。

と定めていました。

したがって何も手続きしなければ、それまでの理事と監事が任期が切れたにも関わらずそのまま責任を負い続けるという、いわゆる権利義務理事権利義務監事という状態になります。

ちなみにNPO法人の理事は法律上最低3名が必要。
このNPO法人は定款でも理事の員数を3名以上としており、かつこの時点で理事はギリギリの3名しかいませんでした。

こういった権利義務理事になった場合、複数人の中の一人だけ人が入れ替わって退任の登記をするという事ができません。人が変わるにせよ同じ人が役職を続けるにせよ、必ず全員同時に退任しなければならないのです。

ということでこのケースでは、臨時社員総会を開き理事・監事両方共に新しく役員に就任してもらうという事になりました。
といってもほとんど同じ人がそのまま役員になりましたが。

臨時社員総会は誰が開くのか

通常であれば、NPO法人の社員総会は理事が開催します。
しかしこのケースにおいて本来いるべき理事は任期満了で、ある意味全員欠員のような状態です。

特定非営利活動法人法では以下のように定められています。

第十七条の三(仮理事)

理事が欠けた場合において、業務が遅滞することにより損害を生ずるおそれがあるときは、所轄庁は、利害関係人の請求により又は職権で、仮理事を選任しなければならない。

つまり、こんな場合には所轄庁に仮理事を選任してもらい、その人にやってもらいなさいという事ですね。

しかし上述した通り、この法人には権利義務理事も存在します。
その名前のごとく理事としての権利義務も持ち合わせているわけですから、権利義務理事による社員総会開催も可能です。

どっちにしたものかなと思い法務局等々で相談した結果、この時は権利義務理事に社員総会を開催してもらう事にしました。

噂話レベルですが、こういった権利義務を承継した役員がいる場合に仮理事の選任をお願いしても却下される事が多いらしく(ちゃんと事例を確認した訳ではないのであくまで噂レベルです)、まあ仮理事でなくても問題ないのでという判断です。

任期満了からかなり時間が経った状態で新たに役員を選任した時の議事録

その時に作成した議事録はこんな感じ。

※「任期の末日において後任の役員が選出されていないときは、その任期を、任期の末日後、最初の総会が終結するまで伸長する。」という役員の任期の伸長規定が定款内にある事が前提です。

臨時社員総会議事録

1.日時  平成24年×月×日  13時から14時30分まで
1.場所    大阪府○○市○○町○丁目○番○○号
1.出席者数  10名(正会員総数10名うち委任状出席者0名)
1.出席理事  ○○○○、○○○○、○○○○

1.議長選任の経過

 定刻に至り司会者○○○○は開会を宣し、本法人の理事全員は既に任期満了しているが、仮理事の選任を待つことができない急迫の事情があるため、すなわち仮理事選任手続きを了するまで社員総会において理事の選任ができない状態が続くとすれば、当法人はもとより、当法人が行う様々な活動の利用者その他の第三者に著しい支障及び不利益が生ずるおそれが顕著であるため、理事長○○○○が招集し、役員の選任のため社員総会を開催したこと並びに本日の社員総会は定款所定数を満たしたので有効に成立した旨を告げ、議長の選任方法を諮ったところ、満場一致をもって○○○○が議長に選任された。本人はこれを承諾し、議長席に着き、13時特定非営利活動法人○○○○の臨時社員総会の開催を宣言し、議事に入った。

1.議事

第1号議案  役員任期満了につき改選の件

 議長は、役員全員の任期が平成21年×月××日までとなっており、定款14条第3項の伸長規定を適用していたところであるが、平成22年×月×日開催の総会をもって既に満了しているため、至急その改選を行わなければならない旨を説明し、その改選方を議事に諮ったところ、満場一致をもって、次の者が理事及び監事に選任され、被選任者は、いずれもその就任を承諾した。

理事 ○○○○  大阪府○○市○○○○町○丁目○番○号
理事 ○○○○  大阪府○○市○○区○○○○番地○○
理事 ○○○○  大阪府○○市○○○○町○○○○番地○
監事 ○○○○  大阪府○○市○○○○町○○○○番地○

第2号議案  議事録記名人の選任の件

議事録記名人について、議長から本日出席の○○○と○○○の2名を指名したところ、全員異議なく承認し、本案は可決された。

議長は、以上をもって特定非営利活動法人○○○○の臨時社員総会に関するすべての議事を終了した旨を述べ、閉会を宣した。(14時30分)

以上の議事の要領及び結果を明確にするため、議長並びに議事録記名人は、次に記名押印をする。

平成24年×月×日

特定非営利活動法人○○○○ 臨時社員総会

議    長     ○○○○      印

議事録記名人     ○○○○      印

議事録記名人     ○○○○      印

代表理事は同じ人が継続。
2012年の法改正前の話なので理事全員が登記され、代表理事の登記はまだありませんでした。

その為、登記申請書とOCR用紙以外で登記申請に必要な書類はこの議事録と定款だけ。改正後の今ならこれに加えて理事の互選書か理事会議事録等が必要になります。

なお、法改正の後の現在であれば逆に代表理事の登記のみとなり平理事の登記は必要なくなっています。

余談

任期が過ぎた状況での役員の改選を行うと、当然ながら重任の登記は絶対にできません。登記簿謄本には任期が満了した日付で退任、そして就任を承諾した総会の日付で就任となります。

この退任→就任の期間はその人は役員ではないという事です。ちょっと注意が必要です。

↓書式の雛形がたくさん載っているのでおすすめ。