この10月より「著作権法」や「ダウンロード 逮捕」などのキーワードでこのブログを訪れる方が増えています。

改正著作権法の一部施行により、今まで意識せずやっていた事が突然【刑事罰の対象になるかもしれない】という状況なので、とりあえず情報を集めている人も多いのでしょう。

arrest in chicago
arrest in chicago / grendelkhan

今回の改正により「ダウンロードの違法化」という事が大きく喧伝されていますが、もう一つ注目されているのはDVDリッピング違法化です。

今回はこちらの話。

その前に言葉の定義を少しだけ。

リッピング ↓ 
DVDなどの電子媒体からデータを吸い出す行為

コピー ↓ 
データの複製。DVDなどの複製は工程途中にリッピングが行われる事が多い。

様々な媒体によって、このDVDリッピング違法化という言葉が広められていますが、厳密に考えればこの言葉自体が間違いです。

以下少しその説明。

改正された著作権法のDVD複製について該当する条文

まずは改正後の著作権法の条文を見てみましょう。
複製に関しては第30条(私的使用のための複製)の第一項の2

第三十条

著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

一 (略)

二 技術的保護手段の回避(第二条第一項第二十号に規定する信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うこと又は同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像の復元(著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

ここの条文が該当します。

ちなみに新旧著作権法対照表は文化庁のホームページよりダウンロード出来ますので、必要な箇所だけでも一度読み込んでおくといいと思います。

まずこの30条の条文をぱっと見てわかる通り、「著作物は私的使用を目的とするときは複製する事ができる」となっています。
ただし【次に掲げる場合を除き】と条件付き。

この【次に掲げる場合】のひとつが上述した↑第30条1項の2の箇所。
少し乱暴に略すると、「技術的保護手段の回避により」複製を「その事実を知りながら行う場合」には、私的利用であっても著作権法違反となるという事です。

しかし逆に言えば「技術的保護手段の回避」によらないリッピングは違法となりません。
つまりDVDリッピングは全て違法としてしまうのは間違いです。
違法にならないリッピングも存在します。

DVDのコピーガードの歴史

dvd collection
dvd collection / habi

今回の改正に至るまでの経緯を簡単に説明します。

・VHS

1990年代。
このころはまだDVDやブルーレイなどはなくVHS全盛期です。

しかしVHSを勝手にダビングして販売・流通する、いわゆる海賊版の被害が増えてきた為コピーガードの技術が導入されました。

これは一般的に「コピーコントロール」と呼ばれている技術で、VHSをダビングすると、ノイズが入ったり画像が乱れる(変な縞模様が表示されたり、画面が点滅したり)という仕組み。

しかしほどなくこの「コピーコントロール」を解除する装置が出回り始めました。

そこで結局、法律が改正され、「コピーコントロールの解除をする事」自体が違法とされました。同時に「コピーコントロールを解除する為の機器の販売」なども違法となっています。
(抜け道はありますが)

そして現在に至るという状態。

・DVD

DVDが一般に流通しだした頃、ちょうどレンタルビデオ屋さんの品揃えが徐々にVHSからDVDが多くなり始めたぐらいには、まだ単体のDVDプレーヤーを持っている人は少なかったと思います。

その頃はどちらかと言えば、ほとんどの人がPS2かPCでDVDを鑑賞していました。PS2では特に何も出来ないのでよかったのですが、ここでの問題はパソコンでDVDの操作が出来てしまったという点です。

つまり少し知識があれば簡単にDVDのデータを吸い出し(リッピング)別のDVDにコピーする事が出来たのです。好きなだけコピーが作れるという状態。

これに対処する為、「CSS」という暗号化の技術が利用されました。これは「アクセスコントロール」というコピーガード技術の一種で、データのコピーは出来るものの再生は出来にくくするというものです。

ところが、このCSSという暗号化の技術は回避プログラムが公開されたことにより、あっさりと突破されるようになりました。ちなみに回避プログラムを作り上げたのは当時15歳の少年だったそうです。

その後も様々なDVDコピーガードの為の技術が導入されますが、ほぼ全てすぐにそのガードを回避するリッピングソフトが登場し、実質コピーをし放題の状況が続く事となります。

何故そんな事になったのかと言えば、VHSの違法コピーを防ぐ為に著作権法と不正競争防止法が改正された時に、「コピーコントロール」を解除する事は違法となったものの「CSS」を解除する事については違法とされなかったからです。

おかげでその辺のコンビニ等でもDVDリッピングの指南本が溢れかえるという異常事態が続く事になりました。(正直なところ、あのあたりの出版社は少し責任を考えるべき。)

それでも私的利用の範囲内で行われるのであれば、そんなに問題はなかったと思います。
しかしネットの普及に伴い、リッピングしたデータをアップローダーや動画サイトにアップ、ファイル共有で拡散などが行われるようになり、さすがに現状のままで放置出来なくなってきました。

そこで2012/10/1に改正著作権の一部が施行され、私的利用の範囲であったとしても「コピーガードを技術的に回避してからのコピー作成」は違法となりました。

※ただし著作権法の第119条を読む限り「私的利用を目的とした場合」刑事罰は適用されないようです。

第百十九条 
著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第三項の規定により著作権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第五項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第四号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

刑事罰はなくとも違法行為ではあります。民事上の損害賠償請求などを求められる可能性があるので、そこは頭にいれておかなければいけません。

コピーDVDを作成しても違法とならない場合

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20100228_100_9305_2 / Uli H.

著作権法の条文を解釈していくと、DVDのコピーを作成しても違法とならない場合がいくつかあります。

・コピーガードがかかっていないDVDなどのリッピング

個人が自分のホームビデオなどで撮影してDVDに焼いているようなケース。
今の時期的に運動会などの撮影も多いかと思います。
これは当然コピーガードなんて施していないので、リッピングしようがコピーしようがなんの問題もありません。

ただこの点に関してちょっと気になるのが、DVDではありませんが「同人ゲーム」の扱いです。
自主制作のような形で作成しているものは、予算の都合上コピーガードを施していない事が多いと聞きます。そうなるとデータを吸い出されてコピーを作られた場合に、違法性を主張するのが難しくなる事が考えられます。

よく考えれば同人ゲームはCDになるのかも?
その場合も考え方は同じです。

詳しくはこちらの記事も

ついにCDリッピングの時代が終わる・・事はなくDVDリッピングが終了という

・単にコピーガードを突破するだけ

条文によると「技術的保護手段を回避しその事を知った上で複製」を行えば、違法となります。つまりただ単に「技術的保護手段を回避」するだけでは違法とはなりません。

ただそんな事をする人はいるのか?という問題はありますが。

・コピーガードを突破せずにDVDのコピーを作成

イメージとしてはDVDをテレビで再生しながらそれをホームビデオで撮影するような感じです。これも違法にはあたらないと考えられます。ただし画像や音声はかなり悪くなるでしょう。

ではPC内で再生しキャプチャーソフトで全て録画した場合。
これもコピーガードを技術的に回避している訳ではありませんので、違法にはならないと考えられます。なんだか大昔のVHSのダビングに逆戻りしたような方法です。

こちらの方法だと、おそらくリッピングするのと変わらないぐらいのコピーは作成出来そうです。相当時間はかかりますけれども。

当たり前ですがあくまで私的使用の範囲で許される事なので、これで複製したDVDを売ったり、誰かにあげたり、ネットにアップしたりするのは厳禁です。

以上のように、DVDのリッピングも内容によっては違法ではなさそうなケースが存在します。
またDVDのコピーも全て違法かと言えばそんな事はありません。

ただ大手レンタルビデオ店などでDVDを借り、それをリッピングしてPCやタブレット端末(iPadなど)などで鑑賞するという行為は、ほとんどの場合これから【違法】になるという事は認識しておくべきでしょう。