結構以前に手がけた案件。
おそらく今後あまりやる事のなさそうな内容であり、放っておくと何をしたか忘れてしまいそうなのでメモ代わりに記事にしておきたいと思います。

My office: dual Apple 30 LCDs
My office: dual Apple 30 LCDs / juhansonin

法人というものはたいていの場合、その設立時において「定款の認証」という作業を行う必要があります。定款とはその法人の根本的なルールを定めた物。

株式会社であれば公証役場で、NPO法人であれば所轄官庁でといったように認証する機関に違いがあったり、また合同会社のようにそもそも定款認証が必要でない法人などありますが、おおむね「定款を作成して認証する」という作業は法人設立の基本となる行程です。

これは一般的な法人である株式会社やNPO法人等だけではなく、行政書士法人や弁護士法人などのいわゆる士業法人でも同じ事。

ただ、株式会社などに比べ士業法人の定款はその内容が多少特殊です。
定款の認証にあたり用意して置かなければならないものなども普通の法人と少し違ったりもします。

以下、弁護士法人の定款認証を行政書士が手がけた時にやった事メモ。

弁護士法人設立の流れ

今回の記事では、あくまで以前手がけた案件で自分が行った事に沿って記述していきます。

この時は弁護士事務所から直接うちの事務所に依頼があったわけではなく、とある税理士の先生を中心として複数の士業が携わり、合同で弁護士法人設立を手がけるという形で仕事が進んでいきました。

設立までの全体の流れをかなり簡単に説明すると、

基本事項の決定→定款の作成・認証→設立の登記→弁護士会へ成立の届け出

以上のようになります。
出資金は存在しますが資本金は登記事項ではありませんので工程から省いています。

この中で自分が行ったのは、定款認証に係わる公証役場とのやりとりと電子定款認証の申請等です。

弁護士法人の定款のひな形を集めてみる

士業法人の定款を認証してくれる役所は公証役場になります。
このあたりは株式会社などと一緒。

認証にあたり、さしあたってまず先にする事は定款原案の作成です。

多少違いがあるとはいえ、株式会社にしてもNPO法人にしても士業法人にしても、実際のところ定款の型そのものは同じです。型というか作りといいますか。

つまり

第1章 総則

第1条(名称)・・・・・
第2条(目的)・・・・・
・・・・・・

みたいなフォーマットは同じだという事。

もっといえば、定款内容の記載の並びは別に決まっていないので、好きに羅列しても大丈夫。でもちゃんと整然と並んでいる方が見た目がキレイです。
そして書類において見た目は大事。

記載する項目の中で重要なのは絶対的記載事項
絶対的記載事項とは、簡単にいえば「その項目が記載されていなければ定款自体が無効になってしまう」という項目の事です。

弁護士法人の定款における絶対的記載事項は、弁護士法30条の8の3項に記載されています。

第三十条の八 (設立の手続)
弁護士法人を設立するには、その社員になろうとする弁護士が、定款を定めなければならない。

2 会社法 (平成十七年法律第八十六号)第三十条第一項 の規定は、弁護士法人の定款について準用する。

3 定款には、少なくとも次に掲げる事項を記載しなければならない。
一  目的 
二  名称 
三  法律事務所の所在地
四  所属弁護士会
五  社員の氏名、住所及び所属弁護士会
六  社員の出資に関する事項
七  業務の執行に関する事項

似たような条文としては、毎度おなじみの会社法26条と27条があります。

第二十七条 (定款の記載又は記録事項)
株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一  目的
二  商号
三  本店の所在地
四  設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
五  発起人の氏名又は名称及び住所

ここでちょっと疑問だったのが、会社法では単に「次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない」とされているのに対し、弁護士法では「少なくとも次に掲げる事項を」と記載されているところ。

「少なくとも」という事は、もしかしてこれは「絶対的」記載事項ではないのかな?という気もちょっとします。ただこれらの内容が掲載されていなければ、定款としての形ができあがりません。ということでしっかり記載。

あとはその他の記載事項として以下のようなものもあります。
いわゆる相対的記載事項(なくてもいいが定款に記載する事によって効力を発揮する項目)です。

  • 損益分の分配の割合

  • 代表権

  • 社員弁護士の脱退の理由

  • 弁護士法人の解散理由

  • 解散時の法人財産の処分方法

  • 定款変更の定め

  • 社員総会の定め

などなど。

これらを含めつつ法人の基本事項を決定し、それに沿って定款を作成していきます。しかし何もない0の状態から定款の条文を作り上げていくのはなかなか大変。
こんな場合にはたたき台となる雛形があればかなりスムーズに事は進みます。

元々自分は雛形とかテンプレートとかが大好きな人間なので、これを機会に弁護士法人の定款雛形がどこかにないか探してみる事にしました。

アマゾンで弁護士法人について書籍を探す

まずはアマゾンで

アマゾン検索→ 弁護士法人

ただこれが良さそうな本が全然見つからず。
何冊かそれらしき書籍があるものの、すでに絶版となっておりマケプレで結構な金額になっています。それにそもそも定款の雛形が掲載されているのかよくわかりません。

さらに法律系の専門書といえばここという事で、新日本法規出版のサイトで検索してみるもこちらも良さそうな本は該当なし。

最終的にジュンク堂まで足を運び、立ち読みしながら探していると発見したのがこちらの書籍。

何となく表紙の感じからこういった馴染みの薄い法人に関しての書式が載ってそうだと思ったのですが、予想は的中。さすが専門書といえばジュンク堂。本棚が充実しています。

士業法人に関しては弁護士法人と税理士法人の2つについて解説が掲載されていました。定款の雛形だけでなく登記申請書の書式なども載っています。

他の士業法人の定款も結構参考になる

上記の書籍だけでも何とかならない事はないのですが、掲載されている定款はかなり簡略化されたものでした。そこで少し考え方を変え、だいたい同じようなものだから他の士業法人の定款も参考にすればいいんじゃないかと思い、探してみたところいくつか発見。

まずは行政書士法人。

行政書士法人の手引 | 日本行政書士会連合会

普通こういった手引きは会員ページにログインしなければ見ることができないものですが、行政書士法人に関しては誰もがアクセスできるページからダウンロードできます。
このあたりがいかにも開けっぴろげといいますか、なんとも行政書士っぽい。

おそらく他士業もそれぞれの士業法人についてこの手の手引きが配布されているかと思います。でも探してみたところ会員ではない一般の人が見ることのできるページでは見当たりませんでした。

ところがネット上をさまよっていると、税理士法人設立の手引きや社労士法人の定款記載例などのPDFがそこそこヒットします。おそらくこれらは、誰かがサーバーにアップしているPDFファイルをGoogleが自動でキャッシュしているのでしょう。

サーバーにアップしているPDFを勝手にキャッシュされないようにするためには、本来robots.txtや.htaccessなどでクローラーを拒否しておかなければならないのですが、それをせずに置きっ放しなではないかと考えられます。

おかげで誰もが閲覧・ダウンロード可能な状態になっていました。
もしかしたら最初からそのつもりで置いている物なのかもしれませんので、これについてはなんとも言えませんが。

ともあれ、定款原案作成の参考になる資料はそれなりに手に入りました。

社員となる弁護士さんに用意しておいてもらう物

Another view: office on 10th
Another view: office on 10th / moriza

これらの集まった資料を参考にしつつ、また新設法人の社員となる弁護士さんとも打ち合わせをしながら定款を作成していきます。

といってもこの案の時は、定款原案作成については中心となった税理士の先生に実質ほとんど考えていただき、さらに弁護士さんとの調整もその先生が行っていたので、自分の出番はそんなにありませんでした。
資料を集めた後は、作成している周辺を多少飛び回っていたくらいです。

そして定款の原案は作成完了。
ここからは認証前の公証役場との調整です。

それにあたり、通常の株式会社の定款認証であればここで発起人の印鑑証明書が必要になります。

もちろん士業法人でも同じく社員となる弁護士個人の印鑑証明書が必要となります。しかし士業法人の場合はそれだけでなく、もうひとつ書類を用意してもらわなければなりません。

士業法人の社員(ここでいう社員とは従業員ではなく構成員としての社員。株式会社でいう発起人や株主と同じ意味。)になるには、必ず該当する士業の登録をうけている必要があります。つまり弁護士法人の社員になるのであれば、必ず弁護士でなければならないという事です。

そして定款認証においては、この「弁護士である事を証明する資料」が必要になります。
この場合その資料とは、日弁連が発行する社員資格証明書
もし他士業の士業法人であればそれぞれ該当する資格証明書。

従って、公証役場で弁護士法人の定款認証をするのであれば

  • 弁護士個人の印鑑証明書

  • 社員資格証明書

以上の2つの添付書類を社員の人数分用意してもらわなければなりません。
ただし弁護士社員資格証明書は提示だけでよく、また印鑑証明書も原本還付ができるので、両方とも公証役場で提示だけして終わったら持って帰るという事は可能です。

弁護士法人の代表者は登記申請の際にまた印鑑証明書が必要になりますので、使い回した方が楽でいいでしょう。

公証役場とのやりとり

Office everywhere
Office everywhere / Luigi Mengato

定款原案と必要な資料も揃えてもらったので、ここからは公証役場との調整です。
いつも通り原案と印鑑証明書、今回はそれに社員資格証明書も加えてFAXし(大阪の公証役場はまだメール対応していないところがほとんどです)、内容をチェックしてもらいます。

株式会社など一般的な法人の場合はこのチェックが1~2日で終わりますが、弁護士法人はあまり件数がないので少し時間が欲しいと言われ、普段よりも長くかかりました。

そして公証人の先生からの修正案や提案を受けて、こちら側でもまた定款案を修正、再度確認などの段階を経て内容確認は終了。
何故かこの間に公証人の先生から公証役場にある弁護士法人の定款雛形の一部をもらえたりもしました。

というかそんな資料が公証役場にあったとは。
最初に聞いておけばよかった。

チェックが終わればここからは普通の定款認証です。
この時は紙の定款ではなく電子定款認証で行いましたので、委任状と定款案を合綴。
その後社員となる弁護士の先生方に認証用の委任状へ押印をもらい、電子申請及び公証役場にて定款認証。

認証後

この後は、

その他登記申請に必要な書類を揃えて押印→登記申請→完了後弁護士会へ成立の届出。加えてこの法人は従たる事務所が2ヶ所(うち1ヶ所は県外)にありましたので、そちらも設置手続完了後にその地域の弁護士会へ成立の届出。

認証後から登記の流れについては、自分はほぼ関わっていませんので詳しく書けるのはこのあたりまでです。

これで無事、弁護士法人の設立手続は完了しました。