ここ最近の間、PFUさんからScanSnap iX500を借りてモニターとして使わせてもらっていました。

おかげで久しぶりに自炊づき、裁断本と自炊の方法についていろんな人のブログを巡りながらなんのかんのと確認しなおし。

そこでふと思い出したのが、しばらく前に自炊代行業者が訴えられていた件。まだまだ自炊に関連しては法的に決着のついていない部分が多いところです。

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そこで自炊や裁断本にまつわるあれこれについて、現状と少し思うところをまとめてみました。

自炊とは

電子書籍に関する自炊(じすい)とは、自ら所有する書籍や雑誌を イメージスキャナ等を使ってデジタルデータに変換する行為(デジタイズ)を指す俗語[1]。デジタル化(スキャン)の効率化のために、書籍や雑誌を裁断機やホットプレート、アイロン等で分解する行為までを含む。

自炊 (電子書籍) - Wikipedia

書籍等の自炊はそもそも合法か

まず本を電子データとして複製することについてはなんの問題もなく合法です。
ただし私的使用の範囲内で。

根拠は著作権法の第30条。

第三十条 (私的使用のための複製)

 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

【以下略】

この条文から、手元にある本を自分でコピー(orスキャン)して所持する事に対して違法な部分は見あたりません。また自分でなくても家族ぐらいの範囲であれば、代わりにスキャンしてもらっても大丈夫とされています。

ではこの場合、お金を払って業者にスキャン代行してもらう事についてはどうなのか?という問題があります。これについてはまだ不透明で結論そのものはでていないのが現状です。

その事もあり、2011年にスキャン代行業者に対し代行の差し止めを求める訴訟が起こされています。

元々今回の記事ではその訴訟の顛末について書こうと思っていたのですが、テーマが変わりそうなのでこれに関してはまた後日ブログで書きたいと思います。

なお、あくまで私的使用を目的とした範囲で複製が許されているだけなので、スキャンやコピーした複製データを他人に譲渡する事は違法となります。

裁断・自炊後の本の処分について

自炊という行為に関しては上記のような感じですが、では裁断・自炊した後の書籍を処分してしまう事はどうなのでしょうか?上述した著作権法第30条では、私的使用を目的として複製した場合、その後原本を保管しておかなければならないという決まりはありません。

そして古本屋が存在しているように、一度購入した書籍はその後他人に転売しようが譲渡しようが購入者の自由です。

購入後の譲渡に関連した条文は著作権法第26条の2。

第二十六条の二 (譲渡権)

 著作者は、その著作物(映画の著作物を除く。以下この条において同じ。)をその原作品又は複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。以下この条において同じ。)の譲渡により公衆に提供する権利を専有する。

2  前項の規定は、著作物の原作品又は複製物で次の各号のいずれかに該当するものの譲渡による場合には、適用しない。

一  前項に規定する権利を有する者又はその許諾を得た者により公衆に譲渡された著作物の原作品又は複製物

二  第六十七条第一項若しくは第六十九条の規定による裁定又は万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律 (昭和三十一年法律第八十六号)第五条第一項 の規定による許可を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物

三  第六十七条の二第一項の規定の適用を受けて公衆に譲渡された著作物の複製物

四  前項に規定する権利を有する者又はその承諾を得た者により特定かつ少数の者に譲渡された著作物の原作品又は複製物

五  国外において、前項に規定する権利に相当する権利を害することなく、又は同項に規定する権利に相当する権利を有する者若しくはその承諾を得た者により譲渡された著作物の原作品又は複製物

正規に購入した流通品は転売しても構わないのです。

したがって、複製データを手元に残しておいたまま裁断・自炊後の書籍を譲渡する事に法的な問題はありません。友人にあげようがオークションで売却しようがAmazonのマケプレに出そうがすべてOK。

ただネット上などを見回っていると「書籍等を自炊した後も原本を所持しておかなければダメ」といった意見も見られます。

その理由について大きく分けると

  • 原本を正規に購入して所持していた事を証明するため

  • 別の条文と勘違い

以上の2つが多い様子です。

正規購入品である事の証明として

一つ目の「正規に購入して所持していた事の証明」については、今時はアマゾンや楽天で購入する事も多いでしょうから、そのサイトの購入履歴で事足りると思います。
注文確認メールの保存でもよさそう。

普通の本屋さんで購入したのならレシートでもいいでしょう。
どうしても不安なら領収書と本を手に持った状態で自撮の写メでもとってればOK。

そもそもその証明をせまられる場面というのがあまり想像できません。
わざわざ購入した事を証明する為に原本を所持していなければならない状況というのは、ちょっと考えにくいでしょう。

別の条文と勘違いしている

二つ目の「別の条文との勘違い」について。
おそらく間違えて認識されているのは著作権法の第47条の3。

第四十七条の三 (プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)

 プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案(これにより創作した二次的著作物の複製を含む。)をすることができる。ただし、当該利用に係る複製物の使用につき、第百十三条第二項の規定が適用される場合は、この限りでない。

2  前項の複製物の所有者が当該複製物(同項の規定により作成された複製物を含む。)のいずれかについて滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後には、その者は、当該著作権者の別段の意思表示がない限り、その他の複製物を保存してはならない。

少しゴチャゴチャしているのでわかりやすい例を挙げてみます。

通常、ダウンロード販売以外でなんらかのソフトウェアを購入すると、CDやDVD等の電子媒体に格納された状態で手元に届きます。

これをPCにインストール(当該著作物の複製又は翻案)する事はOKです。
しかし、その電子媒体(CD・DVD)を無償譲渡や売却する時(所有権を有しなくなる時)には、ソフトウェアをPCよりアンインストールしていなければなりません。

PCにソフトウェアをインストールしたまま、元々の電子媒体(CD・DVD)を譲渡すると違法となります。つまり原本(厳密に考えると原本ではないですが)と複製物は一緒に所持しておかなければならないのです。

ただしこれはあくまでプログラムに限った話。
書籍をスキャンした後に原本を譲渡する事とは別の話です。
おそらくこの第47条の3と第30条が混ざってしまっているのでしょう。

書籍類については、複製物の所持と原本の所持に関連しての縛りはありません。

自炊後の裁断本は実際そんなに流通しているのか

こういった話でよく言われるのが、「スキャンするだけして裁断本を転売する人が増え、正規の本が全然売れなくなるのではないか」、またその結果「裁断本だけが大量に流通するのではないか」という意見です。

ヤフオクでは

確かにヤフオクなどで【裁断済み】、【裁断済】等のキーワードで検索すると大量に出品されています。

ただ見てみるとわかりますが、出品されている量に対して入札件数がものすごく少ないです。これをもって「裁断本が大量に売買されている」とはとても言えないでしょう。

たいして取引されていないのが現状。
さほど売れません。

過去に裁断本を出品してみた事があります。
しかしよほどの人気本か、それともうまく数冊を抱き合わせるかなど、出品方法を工夫しないかぎりそうそう入札されるものでもありませんでした。

結局かなり値段を下げてどうにか処分できましたが、相当長期間に渡り回転寿司状態となってしまいました。それなりの数をヤフオクで処分しようと思っても、手間暇を考えてそんなに割に合わないでしょう。

Amazonでは

Amazonでは状態「可」で出品すれば裁断本をマケプレで売る事が可能です。

Amazonマーケットプレイス コンディション・ガイドライン(2013年2月18日現在)より

製本状態でない商品もしくは製本されていない商品を出品される際は必ずコンディションを「可」で出品してください。また、製本状態にない商品、製本されていない商品であることをコンディション詳細の記入欄に明記してください。

製本状態でない商品を「良い」以上のコンディションで出品されている、もしくはコンディション詳細の記入欄に明記されていない場合は、Amazonの判断にて出品を取り下げる場合があることをご了承ください。

しかし裁断本だけを検索するという事が不可能なシステムなので、そもそもどの程度出品されているかも把握しづらい状況です。

買おうとしていた本の中古品の中に、たまたま裁断済みがあったという事はあるでしょうが、それを狙って購入する事はまず無理です。

ちなみにマケプレでも裁断本を売ってみた事があります。
こちらはヤフオクほど出品に手間がかからないので楽と言えば楽。
大量に出品する場合でもアマゾンが発送代行してくれるフルフィルメントを利用すれば、あとは放置で勝手に売れていきます。

しかしAmazonの場合、マケプレで中古本を購入する際に「コンディションの説明」を読まずに注文する人も多く、裁断本が売れた後にクレームがくる事が多々あります。

ちゃんとコンディション欄に「裁断済み。各ページがバラバラの状態です。」という事を明記してあったとしても、「普通の本と思って購入したのにバラバラになっていて読めない」というクレームがもれなく。

裁断本を専門に出品されているアカウントもありますが、その評価欄を見ると(出品者側からすると)理不尽な理由で低評価ばかりだったりします。

またあまり知られていない話ですが、Amazonマケプレでは購入者が勘違いして購入してしまった場合でも、リクエストがあれば出品者は返金しなければいけません。

Amazon.co.jp ヘルプ: 返品・返金・キャンセルより

購入者都合による返品:

商品の説明をきちんと行い、すぐに配送し、連絡も取っていたとしても、購入者の方が商品に 満足されない場合があることを留意してください。購入者が返品リクエストを送信したとき、商品到着から30日以内にその通知が送信されたことが確認できる場合に限り、購入者都合による返品を出品者は了承しなければいけません。

出品者に責任のない返品の場合には、出品者から購入者へ商品が送られた際の送料および返品の際に要する送料は購入者の負担となります。商品が返品されましたら、出品者から購入者へ商品が送られた際に要した送料を支払われた代金全額から差し引き、返金手続きをしてください。

出品者から購入者へ商品を出荷する前の購入者都合のキャンセルの場合は、注文管理ページから注文をキャンセルしてください。

出品者に何の問題もなく単なる購入者の確認不足・勘違いであったとしても返品請求に応じなければいけないという、なかなか過酷なルールです。

過去に裁断本をマケプレに出品した時は、3冊売れてその内1冊に返品リクエストがきました。なかなかの高確率です。

理由は「コンディションの説明をちゃんと読んでいなくてバラバラになっていると思わなかったので。」というもの。
結局本を送り返してもらい、返金処理を行いました。

ただ商品が届いて1週間後に返品リクエストがあったことから、「もしかして商品届いてスキャンし終わってから返品依頼をしてきたのでは?」と勘ぐってしまったのは事実です。たぶん自分の心が汚れているのでしょう。

ともあれ、思ったよりもうまくいくものではないという印象でした。

そんな訳で個人的に、将来マケプレで裁断本が頻繁に流通する事態にはならないんじゃないかと思っています。

ブックオフでは

ブックオフでは裁断本について、現在のところ買い取り対象外とのこと。

ブックオフに裁断した本を買い取って貰えるか問い合わせてみた - うつせみ日記 (Utsusemi Nikki)

裁断本の売買において一番トラブルになるのはページ抜けです。
買い取りの段階で全ページそろっているか一冊一冊チェックしていくのは、物量から考えてまず無理でしょう。

したがって、今後もブックオフ等の新古書店で裁断本を取り扱う可能性は相当に低いと言えます。

結論

上記に挙げた以外にも、一時期裁断本を専門で売り買いするサイトなどもありましたが、当初よりあまり機能していたとは言えず、現在ではもう消滅しているようです。

以上の事から、裁断本が大量に流通するという事について、ほとんど危惧する必要なしと考えられます。

今後の電子書籍の可能性

何故本を自炊するのかと聞かれた際に、「本が物理的に大きく場所を占拠するから」という理由が多いです。特に大量に本を所持している人(読書家)ほど。

そして、わざわざ書籍を裁断してスキャンしてという手間がかかるわけですから、「最初から電子書籍として販売してくれればそちらを購入するのに」という意見も多数。

にも関わらず、日本では電子書籍の流通はあまり進展する気配がありません。
大人の事情がありつつ出版社側があまり乗り気でない様子です。

また著作権者側からは「コピーが容易に可能な電子書籍で販売すれば、海賊版が大量に出回り、本(最初から電子化して販売しているものも含む)が売れなくなる」という意見も聞かれ、それも電子書籍推進が芳しくない要因のひとつとなっているようです。

ただ現時点でも海賊版の電子書籍は出回っています。
別に電子書籍として販売されていなくても、普通に購入して裁断し自炊したデータが海外のロダなどに相当数UPされています。
ロダ以外でもtorrentやshareなどに多数。

特に人気のあるコミックやラノベなどが多い印象です。
作品名+ゴニョゴニョで検索すればいくらでも引っかかります。

※注)

当然これらは違法行為です。
有償著作物のUPについては逮捕者も出ています。

現状がこうなっている訳ですから、今更日本で電子書籍販売が推進されても、それを原因としてさらに海賊版が増えるという事は考えにくいです。
何しろ現時点で、すでに海賊版はあふれかえっているのですから。

さて、ここでひとつ面白い本があります。こちら↓

ブログを書く人ならほとんどの方が知っているであろうプロブロガー本。
発売からほぼ一年経つのにマケプレでほとんど値段が下がっていません。

ちょっと余談ですが、Amazonはキャンペーンなどで売上のランキングをいくらでも操作でき、総合やジャンルランキング○位!といった記録と内容の良さは比例しません。

またそういったドーピング気味のランキング操作をすると、中身の伴っていない本の場合は数ヶ月後マケプレで数百円以下の価格で投げ売りされます。

対照的にしっかりした本は、時間が経ってもマケプレであまり値崩れしません。

それが全てに当てはまるというわけではありませんが、自分はマケプレの値段も本を選ぶ際の指標の一つとしています。

ただしどんな本からでも得るものはあるということ、そして他人が評価していない本でも自分にはガッチリはまる事が多々ありますので、あくまで参考程度ですが。

なお自分はこの本を最初、図書館で借りて読みましたが、読み進めるうちにこれは手元に置いておかなければと思いすぐにAmazonで注文したという思い出があります。
なかなか濃い内容の一冊です。
余談終了。

さてこのプロブロガー本、市場で「裁断済み」で検索してもまったく見つかりません。なぜなら所持している方ならわかると思いますが、購入すると無料で電子書籍版(PDF版)もダウンロードできるからです。

つまり電子化するのにわざわざ裁断する必要がないという事。

また特定の電子機器でしか読めないような特殊なファイル形式ではなく、PDF形式なので環境を問わず電子書籍として読むことが可能です。
ということは、悪く考えるならば複製され放題・複製データを流通させ放題なはず。

そして電子書籍版だけ手元に置いて、本そのものはヤフオクやマケプレで売るという事も簡単です。裁断しなくてもいいのでブックオフにも売れます。

では上述した「コピーが容易に可能な電子書籍で販売すれば、海賊版が大量に出回り本が売れなくなる」という見解通り、この本は売れていないのでしょうか?

どう見ても売れています。
電子書籍の販売や自炊後の裁断本の流通が原因で本が売れなくなるという見解は、実際のところどうなんでしょうか?

もちろん全く影響がないとは言いません。

それにこういったHow to本と一般の小説や文芸書はまた違うのでしょう。
ただ日本で電子書籍の販売を推進していくにあたって、非常に面白い事例だと思います。